カ〜コで何かしら言う

近田未来くんが奇をてらった思慮浅い軽率な行動ばかりしているとどこかでだれかが勘違いしているのではないかと
私は心配している。
寝言でも「違う!!」とかばっている。
その寝言は、家族にうるさがられている。
近田くんのリコーダーがクーピーに穴を開けた手作りの笛であることも、
近田くんの柔道着の帯がかんぴょうであることも、
近田くんの近くにクーピーがあったから、
かんぴょうがあったからであり、
それは特にパフォーマンスでもなく、
日常生活のほんの一部であり、
近田くんは最近は生活というもの全体に疲れて、
リコーダーがクーピーで帯がかんぴょうであるような自分にも疲れて、
早く
近田春夫ぐらいに枯れて、
キャンサーを得て、
治療をがんばって拒んで、
うまく亡くなりたいような気持ちだったんです。
帯にしていたかんぴょうに紅い点が一つぽちっと出来て、
こりゃそろそろ捨てなきゃなあと思います。
近田くんの目に映る世界の紅一点が
私であれば、やりがいあるなあと思います。
(柴)

近田未来くんに関しては私も心配しているんです。
彼は背負いすぎだ。おまえ背負いすぎですよ。
ケータイ電話の着信音のような音が溝から聞こえてきたときも
その音に気づいたのは彼ひとりだったのです。
それをどうにか拾って持ち物にしてみたものの、
「か」を押すとかんぴょう、「き」だと近未来、「く」だとクーピーで
「け」は軽率「こ」は紅一点、といった
まるで関連性のない言葉が次々と勝手に変換される機能がオンになっていまして
うまく笑えないのです。
避難囂々に関して言いますと、避難ゴーゴー!ではないということを
彼は背負った。
たしかに、近田未来は疲れていました。
重いの。
学校に持っていってはいけないケータイ電話を持っていっちゃって、
例の件で持ち物にしちゃったからつい持っていっちゃって、
友だちに見せびらかすとか、そんな気はほんとになかったのに、
ただ持ち物にしちゃったもんだから。
持っていっちゃって。
短い反省文を書かされちゃったの。放課後でした。
それがあまりに誤字脱字にあふれた反省文で、
訂正の入ったプリントを返された時、
これじゃ反省の感じがまるで出ていないなあと先生は思ったであろう、
と思うと、
わたしはやるせないなあ。
(脇)