文章:ハ・ガマ・ルイ・ト・ ラ・ノコ

販促ボードに「奥さんにはこれでしょう ^^/」と書かれるまま促されるまま、
女性用高級(っぽい)がま口を買います。
劇画エロ本コーナーにすっとんでいって何はさておき読んだことへのいくばくかのやましさからです。
ほかにたまっているものと言えば、涙。涙腺をゆるめたい。
店でかかってる曲で適当に、適当に、曲など選ばず、泣きます。


罪 tsumi〜 咎 toga〜 のこぎり持って来てくれていいよ
 僕は 僕は ラナウェイ run a way〜 食料は持つよ 


家までのバスの中で姉に怒られる夢を見た。
あんたなんで食パン食べたの?なんで運動しないの?
賞味期限切れてたから
あんたチーズケーキまで食べたの?
相当な日数、賞味期限切れてたから
あんたなんでわざわざ小豆味の生ドラ食べたちゃったの?でなんで運動しないの?
賞味期限今日までだったから


ただいま、今帰ったよ、お土産たいしたものじゃないけど
(柴)




こんにちは、職人です。しかしがま口財布製作活動に煮詰まりましたので、
そんなんじゃいかん、わたしはなにかに触発されるため、
わたしの触発を目的として、おにぎりを拵えてお湯を沸かしコーヒーをいれ水筒に投入、
おやつにカントリーマームを2つ用意しました。
おにぎりの中には、きのうの唐揚げを入れました。
そしてそれらをリュックに詰めて、すごく防寒して、自ら足を運びました。
そうやって出向いた彫刻家のアトリエでわたしは触発され、
大ヒット間違いなしの歴史的ながま口財布を生み出すのです。


アトリエにはすでに見物客が数名いらしていました。
物好きそうな人達に感じた。
わたしは見物料金を支払い観客席に座り触発の用意をしました。目を凝らしたとゆうこと。
しかしそこにはなにもなかった。
ただ、その人は彫刻刀やのこぎりを持ってはいたし、動いてはいました。
ひどく動いていた。
ははーんエアー彫刻ですか。
たっ、やられた。でもでもお金払ったし見ますとも。おにぎり食べますとも。
おにぎりや水筒の片手間でエアー彫刻家の様子をチラチラ見ましたが
わたしには理解できなかった。
彫刻家が手に持っているものが筆になればそれはエアー絵画とも取れるし、
ラケットならテニスかバドミントンでしょうよ。
そんなのとどのつまりが持っている道具で決まるんじゃん、
目に見えるものがすべてじゃん。
わたしは泣きたかった。ぼったくられた。
あと、そのくせエアー彫刻している人の顔には迷いがなかったから。
見えてんのですか、ご本人にはその作品というかなんかそうゆうのが、
見えてんのですか。
なんでなんでそんな平気で金儲けすんの。理解できない。できません。
個人的すぎやしませんか。あなただけが満足でありすぎていやしませんか。
だからほら観客だってこんなに少ない。
ですがね、派生しては消えてゆく、大衆文化、流行りの波に乗る気にはならない。
世にはびこる販売促進には惑わされたくない。
ああどの考えにも賛同できませんよ。
少なくともわたしは世のため人のためになるべくがま口財布を作り続けているからね。
好きでしょ、幼児が首からぶら下げてたりしてごらんないよ、ね。
かわいいでしょ和むでしょ。中には消しゴムとかが入ってんです。ね。
やさしい気持ち、なっちゃうんです。笑顔。
だからそれは、世界平和へとつながるんです。世界。
それにがま口を開けた時のあの音とか感触がなんたって好きだからね。
一億総がま口。いい景色だ。


といったことを考えながらおにぎりを噛みしめていると
見物に来ていた子供が大事そうにウエストポーチから財布を取り出した。
それはブランド物の偽物のお札を曲げずに入れることのできるやたらずっしり感のある
子供らしからぬ財布でした。
わたしはわたしの涙腺に刺激を与えないように深呼吸をしましたが、
やはり泣けてきました。
がーんわたしのやっていることこそが自己満足じゃないですか。
ですよね財布はジッパーに限りますよね。今時の子供ががま口はないよね。
なにかのために誰かのためにとか言うてますがね、ちがう。
満足してるのは自分だけ。ああこれを子供が首から下げますから。とか思い浮かべて。
挙げ句、そうやってやたらがま口作るもんだから技術面で優れてくるね。
いいがま口ができてしまうよね。
想像力をかき立てるすごく手触りのいい、それでいて丈夫ながま口が作れてしまう。
それって誰かのためじゃなくて自分のためになっちゃってんじゃん。
わたしそんな人間になりたくないんですよ。
自分のことしか考えていないような、自分本位の人間。いやなんです。
なのに、誰かのためにと思えば思うほどにそれは自分のためになっている。
とんだ勘違いでした一億総がま口。天罰を罰を咎を受けます。
エアー彫刻家より、世にはびこる販促チームより、わたしはわたしが嫌いです。
いつかこの悪循環をあきらめて認めることができるのですか。
みんなどうやってあきらめたのですか。
わたしはがま口を作ることしかできないのに。



職人は悪循環を消化できないまま、その後もがま口を作り続けました。
ひたすらやりました。ラナウェー突っ走った。
誰かのためにやるのをやめたり、やめるのを忘れたりしながら。
それに目を付けた会社の販促チームは手作りがま口財布を子供たちの他に
ブランド志向の高所得者にもターゲットを広げ、売っていきたいと職人に提案。
がま口には「咎」と書かれたタグが付いていて、その自虐的な感じが
なんかいいよねーてことで、販促チームや身内、ブランド志向の高所得者
子供たちはそこそこ笑顔になりました。
(脇)