「ザ〜ゾ」で何か言ってごらんなさい


臓器になりたかった。
臓器バンクにも登録の申請を試みた。
全く相手にされなかった。


悲しいかな、ズッキーニは野菜で、
ザウアークラウトはキャベツの酢漬けだったのだ。


レバーは惜しかった。
肝臓のままでいられれば立派に臓器として生きられたものを、
今や焼肉のタレに漬け込まれるばかりだ。


ズッキーとザウアーとレバーは、
それぞれにお互いを知っていた。


臓器バンクの窓口の人から、
お客様以外にも登録申請をお受け出来ないケースというのはあるんですよ、
申し訳ありません。
と聞かされていた。


三者三様に、自分だけは臓器になれるはずだという思い込みからはじまって、
今では自分たち3人だけが
臓器になれない身の上なのだと分かっていた。


公園のブランコをこぎながら
3人は並んで何を話すでもなくときを過ごした。


臓器にはなれないのだ。


ズッキーニの輪切りにレバーが乗って、その上にザウアークラウトが乗って、
3人は光速で飛び、


自分の運命を自分で飲み込めないでいるジレンマから
いよいよスピードを増して飛び、


税込みで2800円になりますとしゃべった販売員の口の中に
飛び込んだ。


販売員はその光速に何が何だかわからず、


ただ、五臓六腑に染みるようだなあと


ぼんやり感じながら時間まで販売を続けた。


(柴)



はじまった、終わりが。
ザウアークラウトじゃなくてシャワー使うと新太郎はそんな気持ちになりました。
新太郎はフレッシュマンでした。
フレッシャーズなので大手の紳士服業界からは応援されていました。
新太郎はシャワー使いながらあしたの初出勤のことを考えているのですが
どうも、こう、なんというか胸躍る、肉踊る、血が湧く感じにはなれませんでした。
またはじまった、終わりが。
てなる。気分が。
新太郎はこれまでもいろんなことやってきたよ。
そしていろんな気持ちになったことがある。
だからこの初出勤前夜の変な感じを知っていました。
新太郎は別れを惜しんだことがあったので、
新しいことが始まるのはそれが終わることだとあきらめていました。
ジレンマです。
もう惜しみたくなかった。
惜しむのはなんだかんだつらい。体力使うし。
新太郎にはそんな経験がありました。


いっぽうで今晩のおかずはズッキーニでした。
輸入ものを食して自信をつけてみました。
初出勤した際、昨晩のご飯内容を訪ねられたときのために備えた。
新太郎は慎重派ですね。
スーパーで¥200と書いてありました。
レジでは「200円です」の決め台詞を2回も言われていました。
新太郎は税込み価格表示が定められていることを忘れ、
210円を出した自分をあきらめきれなかったから。
買ったズッキーニはどうしていいのかわからず
食べれそうな箇所だけを生でかじってみましたが
べつに好きな感じではありませんでした。


新太郎は胃にズッキーニを詰め込んで
臓器バンクセンターに初出勤しました。
(脇)